書き出すことで、不安の正体が見えてきます。

●これから先の事へに対する不安を「先取り不安」と呼ぶことがあります。
先取り不安とは、まだ起きていないことに対する不安を指します。具体例をいくつか挙げたいと思います。
・仕事で明日プレゼンをしなくてはならない。失敗したらどうしよう。
・明日のシフトは誰と一緒なのだろう。あの人(苦手な人)と一緒だったらどうしよう。
・明日の集まりで、誰も話してくれる人がいなくて一ぼっち(孤立)になったらどうしよう。
いかがでしょうか?似たような心配をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか?この例はごくごく一部で、対象となる心配事は人によって様々です。共通しているのは、まだ起きていない事、未来への不安なのです。
●先取り不安が強い方の特徴。
先取り不安に限らず不安の強い方に共通の傾向として、生真面目なタイプが挙げられます。完璧主義と言い換えても良いかもしれません。このようなタイプの方は失敗することをことさら恐れます。自分に完璧を求めるあまり、失敗した時の恐れも大きいのです。その裏には恥をかきたくないという気持ちも存在しています。
また、防衛本能の強い方も挙げられます。自分を守ろうとする気持ちが強いので、他者から攻撃されたり嫌な思いをしたりする事に対する恐れが強いのです。
また、人に対する依存心が強めの方は、孤立することへの恐れがとても強い傾向があります。まとめると、生真面目・完璧主義・防衛本能・依存心などが挙げられますが、当然それだけではなく他にも様々な特徴が考えられます。
●その特徴の根っこに存在するものは?
これらの特徴を形成する要素として、ご本人の生まれ持っての気質や性格もありますが、生育環境における両親との関係性が大きく影響しているケースも考えられます。親がこれらの気質を持っていると、子供も当然影響を受けることになります。似たような気質が形成されても不思議ではありません。
また、それとは別に親が高圧的であったり、気分の変調が激しくていつ怒られるかわからなかったりと、常に緊張状態の中で育つと防衛本能が強く形成されることがあります。そして、親の言う通りにしないとならない、良い子でなければならない、試験では良い点数を取らないとならない、などの考えが無意識のうちに強く身体の中に刻み込まれると、それが極度に失敗を恐れる完璧主義(完璧であらねばならない)を形成することにつながるのです。
また、親が過干渉、過保護であったりすると、自立心を形成することが出来ずに誰かに守ってもらわないと不安で仕方ない、もしくは甘えたいなどの強い依存心を生むことにもなります。また、過保護・過干渉に限らず親から非難や否定ばかりされても、自己肯定感が育たずに自信が無く、強い人間や守ってくれそうな人への依存心が強くなっていくケースがあります。
●先取り不安は生きてきた中で形成された習慣です。
このように先取り不安は成育環境にも関わるケースもあるので根が深く、それは生きてきた中で身につけた習慣のようなものです。それは、自分を守るための習慣でもあったので、先取り不安を手放すこと自体も実は不安で仕方ないのです(本人はこのような不安を手放したいと思っているので、ほとんどの方は気づいていませんが)。この習慣を手放していく作業は、「そんなこと気にしても仕方ないよ」とか、「もっと楽しいこと考えたら」とか、言われてもとても実現できるものではありません。しかし、このような過酷な体験をしていない人たちは、それが理解できずに何度言っても治らないので、相談されること自体に嫌気がさしてきて離れて行くというようなケースも多く見られるのが実情なのです。
●先取り不安が強い方の生きづらさとは?
習慣であれば、今までもそれで生きてきたのだから無理して直す必要もないのでは?先取り不安と付き合って生きていけばよいのでは?などと思われる方もいるかもしれませんが、この苦しみを抱えている人たちはかなり大変な思いをしてこれまで生きてきたのであり、そそして今現在も大変辛い中を生きています。その苦しみから逃れるためにアルコールや薬物、過食嘔吐、そしてギャンブルやセックスなどに依存するようになるケースもあります。それほど不安と言うものは辛く重い感情なのです。
そして、常に何かしらの不安を抱えてその対処法を考えたり身構えたりしているのですから、生きているだけで心は疲弊して、人生で大切な幸福感を得ることができないままに生きることになってしまうのです。周囲からはネガティブな人と思われて、敬遠されることもあり得ます(ポジティブだけが良いとは決して言えませんが、この社会においてポジティブを好意的に捉える傾向がある事も事実です)。
また、このような常態化した不安は身体にも大きな影響を及ぼします。慢性的な疲労感、首、肩、背中の痛みや内臓の不調を訴える方もいます。もちろん先に挙げた依存症などを併発したケースでは大きく身体的健康を損ねることになります。
●先取り不安を改善する方法はあるのでしょうか?
長い年月の中で、生きるために身につけてきた習慣を手放すこと自体が不安でもあるので、先取り不安を手放していくことは容易ではありませんが、丁寧に自分の問題と向き合っていく事で改善していく事は可能です。しかし、自分一人で取り組んでもかなり難しいのが現実なのです。今までもご自分でなんとか改善しようと頑張ってこられた方も多いのではないでしょうか?しかしそれが成し得ずに疲弊してうつ傾向に陥ったり、自分にダメ出しをして自己嫌悪感に囚われたり、悲観的になって時には自暴自棄に陥った経験をされた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
●認知行動療法とスキーマ療法
それでは、先取り不安を改善するにあたってはどのような心理療法が存在するのでしょうか?大きく分けると、先取り不安の根っこに存在する過去の親との関係等に触れるスキーマ療法などと、先取り不安が生じる自分の心理的傾向(パターン)を分析していく認知行動療法などの二つの方向性が存在します。「など」と表記したのは、スキーマ療法や認知行動療法の中にもいくつかの心理療法が組み込まれて、実際の臨床では活用されているという理由からです。
ここでは、認知行動療法についての解説をなるべくシンプルにお伝えしたいと思います。
●紙に書き出して分析する認知行動療法。
認知行動療法の特徴は、紙に文字として書き出すという点にあります。カウンセリングと言うとカウンセラーとの対話をイメージする方も多いと思われます。もちろん対話はカウンセリングにおける柱です。カウンセラーとの相互関係においてご自身で気づいていく事が何よりカウンセリングでは大切な事です。しかし、頭の中で考えて話しているだけではなかなか見えてこないこともあります。その分、時間も要します。そこで、自分の頭の中を紙に文字として書き出すことがとても有効になって来るのです。
それでは、どのように書き出すのでしょうか?認知行動療法は、その効果が証明されたシステマティックな心理療法です。まず、不安の対象となる相手やその状況(出来事や場面)などを文字化します。次に、その相手や状況に対して自分は何を考えるか(思考)を書き出します。続いてその考えに伴う感情を書き出します(不安・恐れ・苦しいなど)。それを身体のどこでどのように感じるかも書いてみます。続いてその不安に対して自分はどのように対処(行動)をしたか、もしくはしているかを書いてみます。ある程度自分の不安を文字にして書き出す(外在化)ことが出来たら、次は違う視点での考え方や見方、感じ方ははないかをカウンセラーと一緒に考えて書き出してみます。そしてその考えが良いと思ったらそれを実生活の中で活用していくのです。
この作業をホームワークも含めて何十回と行っていくと、不安に対する受け止め方に変化が起きてきます。その変化に呼応するように今までの苦しさも変化(軽くなっていく)していくのです。
●不安自体は生きていくために必要なもの。完全に無くなることはない。
先取り不安も含めて不安自体は、生きていくための本能であり、それが完全に無くなることはありません。無くなってしまうと危険の中に飛び込んでいくことも出来てしまうので、生命の危険にさらされることになってしまうからです。ですから、今までが100の苦しみだったとするとそれが例えば70であれば十分OKであり、50になったら大成功と言えるのではないでしょうか。不安の強い方は完璧を求める傾向もあるのでその位に考えておいて丁度良い位なのです。何年もの間、根気よく続けていたら、気が付いたらあまり気にならなくなっていた、と言う感じでしょうか。