トラウマで身体が固まってしまう方へーソマティック・アプローチのご案内

身体に働きかけるトラウマ処理法

ソマティック・アプローチイメージイラスト

●トラウマ体験を受けるとなぜ身体が硬直することがあるのでしょう?

 過去に、暴力や暴言、心理的虐待などの強いストレス体験を受けると、その状況が深層意識に焼き付いて加害行為をした人間と同じようなタイプの人間を前にしたり、見かけたりすると身体が硬直して動けなることがあります。そのような状態の時は思考も停止しているように感じます。頭が真っ白というような状態です。このような経験を重ねると、回避行動と言って人が集まるような場を避けたり、常に身構えていたりと、自由に行動できないばかりかストレスの負荷も大きくなります。ではなぜ、そのような状態に陥るのでしょうか?実はトラウマは、心だけでなく身体にも焼き付いているのです。ですから、トラウマ体験を想起させるような状況に出くわすと意思とは関係なく身体が勝手に反応してしまうのです。また、脳も身体を構成するパーツの一つと考える理解しやすいのではないでしょうか。これは、トラウマ体験による負荷が強く、その時に身がすくむ体験などをするとそれを身体が覚え込んでしまうのです。考え方を変えていくなどの心理療法だけでは解決することは難しく、身体の感覚に働きかけていく事が解決のための鍵となります。そのためのアプローチがソマティック・アプローチと呼ばれるものです。

●ソマティック・アプローチの概念とは?

 ソマティックの意味は「生き生きとした身体」にあります。身体は単なる細胞や神経の集合体ではなく、そこには感情や意思があると捉えても良いかもしれません。メンタル面においては脳が得た情報が身体に影響を及ぼすとの考えが主流でしたが、近年では内臓が脳に指令を与えているとの考えも重要視されています。要するに脳と内臓(身体)は双方向で影響し合っているという事です。身体が病むと心も病んでいくのです。

 そのような理論の元に、トラウマに対しても身体感覚に働きかけていく治療がソマティック・アプローチです。

●具体的にはどのようなことを行うのでしょう?

 トラウマ体験をした方は、過覚醒、つまり思考が休まらない方が多く見られます。その分、身体感覚を感じることが苦手な方がいますので、まずは身体の感覚に意識を向けるワークから始めていきます。その基本とも言えるものが呼吸に意識を向けるマインドフルネスです。マインドフルネスのマインドフルな状態というのは、その場でのありのままの自分を感じ、そして受け容れるという事です。息を吸って吐いて、その時の鼻腔や口腔、咽頭、肺、内臓感覚に意識を向けていきます。それに慣れてきたら、椅子に座った状態で、足裏に体重を感じながら、足の上げ下げ、つまり歩いたり走ったりする感覚を体感するようなワークを行うこともあります。トラウマ体験でやむなく無抵抗状態に陥った状態からの脱出のための疑似体験をしていきます。逃げることは決して悪い事ではありません。身を守るための正当な行為なのです。

 また、身体というものはその内面に自らを癒す力が備わっています。恐怖体験のストレスや緊張から自分を解き放つ力があるのです。その力への気づきを促すために、自分自身を優しく抱きしめたり、身体の中の気(エネルギー)の流れを感じたりするワークなどもあります。その上で、トラウマ体験を想起した時に感じる感情や身体感覚から離れて、普段の状態に戻ることが出来るということへの気づきを促していくのです。

●ソマティック・アプローチを行うための環境とは?

 強いトラウマ体験は、本人には自覚が無くても常に不安に付きまとわれて身構えているような状況を生み出します。そのような方にまず必要なことは安全で安心できる環境です。カウンセラーはカウンセリングルームを安全・安心に感じてもらえるように配慮をします。カウンセラーとの信頼関係が構築されていくと共にカウンセリングルームはクライエントの方にとっての安全基地となっていくでしょう。そのような環境の中でソマティック・アプローチは進められていきます。

●自分の中の回復する力を信じて。

 トラウマ体験は、その後の人生の一生に影響を及ぼします。その傷の深さ故に、治療には根気のいる努力を必要としますが、人間には身体だけでなく心も自ら癒していく力が備わっています。その力を心理用語ではレジリエンスと呼びます。その力への気づきもソマティック・アプローチの大切な目的の一つです。トラウマ体験で苦しんでいる方や、カウンセリング、ソマティック・アプローチなどに関心がある方はお気軽にお問合わせください。あなたの心が癒されることを願って。